読みもの

しゃべってないで書いたら日記〜店主の身に起きたことそのまんま日記〜

2017年12月02日

「父、帰る?」

今月の初めに実家で父が転倒した。その日はピースフラッグがペチャクチャナイトにゲストで呼んでいただいている日で、メイちゃんはじめピースフラッグの皆さんとグーグー鳴るお腹を抱えて何回もリハーサルして、さて!これでよし!いざ晩御飯食べて会場へ!ってところで弟から電話が入った。

父がなんか変なこと口走っている、転けて頭を打ったらしい、と。

私は本番をトンズラさせていただいて実家へ。土気色した顔してぐったりと横たわった父はよくわからないことを喋っていた。

救急車を呼んで病院へ。検査をしてもらったら、こう膜下出血、くも膜下出血、心不全、大腸破裂(病名、長い名前でした、忘れてしまった)、背骨骨折、という状態で、よくまあ生きているなあと驚いた。

まずはすぐに大腸の手術を、というお医者様の話を聞いていた父は、体につけられた管を取ろうとしながらジェスチャーで「イヤイヤ」と繰り返す。お医者様はすぐに手術しないと命が危ないですよ、とおっしゃる。

するとまた「イヤイヤ」をする。

それで私は「このまま逝かせてやってください」と言った。

救急治療室でお医者様や看護師さんに囲まれてそれを言うのは勇気がいった。だからなんか大きな声になってお芝居のセリフみたいな感じで自分の言葉がぽわ〜んと宙に浮いているみたいな空気になった。

お医者様は「は?」とおっしゃった。

それから「イヤイヤ、手術しないと本当にもう数日で亡くなってしまいますよ」とおっしゃる。「でも本人もこう言ってますので。助かっても喋れなかったり歩けなかったりはイヤだと思います。痛みだけ取ってやっていただくのは無理ですか」と言うと言葉がまたぽわ〜んと浮いた。

パーキンソン病で全ての動作がゆっくりで話し出すのもゆっくりな母は、あんぐり口を開けてこのやりとりを見ていた。

お医者様は「緩和するだけも出来なくはないですが、いや、諦めるのは早いです!手術すれば元気になられるかもしれませんよ!」とおっしゃる。いいお医者様だと思った。困惑はされていたが真剣に対応してくださった。

父はジェスチャーで「イヤイヤ」を繰り返していたがいかんせん、喋れない。

人間、肝心な時に喋れなかったりするのだな。

私以外の家族は全員「手術してもらおう」と言って、なんだか私が駄々をこねて説得されるような立場になり、結局手術をしていただいた。

手術はあっさり成功、その後数日は、集中治療室でぐったりしていたが案外早く一般病棟に移された。アタマもシャンとして「なんかな、うまいこと喋れへんだわ〜言語障害やったんやな」などと言っている父を見て、「うっかり殺すとこであった・・・」と反省した。

しかし、その後またおかしな言動が始まった。

夜中に病院を抜け出して警備の方に保護されたり、亡くなった兄弟が来た、と言ったり、赤ちゃんの泣き声がすると言ってあちこち探し回ったり。

ボケたのか?一時的な「せん妄」か?その上、ご飯をほとんど食べない。

なのでずーっと点滴をされている。この状態はアタマにはますます良くないと思い、お医者さまと相談し今日は実家に一時帰宅をしている。

お酒を飲まない日のなかった父がこの一ヶ月近くは一滴も飲んでいない。案の定、病院からの帰りの車でもう「ちょっとビール買おか」が始まった。私はお酒を飲んだらぼんやりが治るのでは?と思っている。飲ましてやろう、と思っていた。でも病院からは絶対にダメと言われているから他の家族がまた全員で「ダメ」という。

「ちょっとビール」

「ダメ」

「なんでやねん、ビールみたいなもんは酒とちゃうで、あれは清涼飲料水やで」「ダメ」

「ほなら俺、ちょっと散歩行ってくるわ」

「背骨折れてて散歩なんかできひん!ビール買いに行こ思てるやろ」

という会話がエンドレスに続き、ようやくノンアルコールビールをあてがってもらって「うまい!」と言ってやっと少しご飯を食べた。

このところ全然食べないから、私は「この人は死のうと決意して食べないのだな、我が父ながら偉いやっちゃ」と思っていたのだが違った。飲まないと食べられないだけだった。

久しぶりのご飯を食べながら、

「幽霊てほんまにおるんやな。死んだタアちゃんが来て『もう絶対病室抜け出したらあかんぞ』言うて怒りよんねん」と父。タアちゃんとは先年亡くなった父の兄である。

それを聞いて弟が「それ俺や」と言うと、

「あ、あれお前か?そうか〜俺てっきりタアちゃんやと思いこんでたわ。いや、せやけどタアちゃんもな、確かに来てたで。幽霊てなかなか可愛らしいもんや」、ボケているとまではいかない。ほろ酔い状態のご機嫌さんである。あの時、手術を嫌がったのはあのまま死にたかったのか?今となってはよくわからない。親戚の中にいると私は昔から変子扱いで笑いのタネにされるのだが、今回も父のご機嫌さんな発言よりも私の「逝かせてやってください」の方が特ダネみたいになっている。