読みもの

しゃべってないで書いたら日記 〜店主の身に起きたことそのまんま日記〜

2017年08月14日

「遠足」

小学生の頃、普段は向こう気が強くて勢いがいいくせに遠足になってバスに乗ると青白い顔でビニール袋を手に一番前に座っていた。乗り物酔いがひどかった。

5年生の遠足のことだ。うちの家は遠足の朝になると父と母が一緒に弁当を拵えてくれた。俄然、父の方が張り切って大きなおにぎりを握るのはいつも父だった。牛肉の甘辛煮、卵焼き、ウインナー、お浸し、イチゴも入っていた。昔ながらの折り詰めの弁当箱に入れられたその美味しそうな弁当を今も覚えている。遠足といえば弁当だけが楽しみだった。どこに行ったのかも覚えていないのだけど、お寺の境内のようなところでいよいよお弁当の時間、嬉々として「いただきまーす!」と言ったとたん、真っ逆さまに弁当を落としてしまった。美味しそうな弁当を斜めにとか横向きに、とかでなく見事に真っ逆さまにひっくり返してしまった。弁当は満遍なく土にまみれた。

普段泣いたことなんてないのだけれど、この時はオイオイと声を上げて泣いた。クラスメートのみんなが「私の食べ」と言いながらちょっとずつおにぎりやおかずを分けてくれた。恥ずかしげもなく号泣するのを見て気の毒で居ても立っても居られなかったのだろう。みんなのお弁当をちょっとずつ、ありがたくいただきながらも、私はいつまでもひっくり返った弁当の残骸を蟻がせっせと運んでいくのを見ていた。

6年生の秋の遠足のことだ。小学生最後の遠足ということで張り切って学校へ行く途中、後ろから友達が私の名前を呼んだ。くるりと振り向いた途端、首の筋を違えて、痛くて首が元に戻らない。横向きのまま先生のところに行き「先生、首が回りません」と言った。先生方は「えー」と言って、それから困惑顔でちょっと相談していたが、やがて気の毒そうな顔をして「帰りなさい」と言われた。山登りだからそんな首では無理だ、と言われた。一人で首が横向きのままの帰り道、「今、誘拐魔が来たらこんな首では逃げられない」という緊張感と最後の遠足に行けなかった無念とで半べそかきながら早足で帰った。

遠足の思い出はこの二つ。あとはほぼ覚えていない。